暇つぶしの玄人

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小泉悠『ウクライナ戦争』

筆者であるユーリ・イズムィコこと小泉氏のことをずっと、Twitterにいるインターネットミームで遊ぶのが好きなミリオタだと思っていた。というかそうなのかもしれないが、今は東大の先端研の講師でもあるそうで、興味本位で初めて氏の著書を手に取った。
 
面白い、そして、読みやすい。
 
現在進行形の事象に研究者が論じる場合、どうしても未解明なことも多く、書きにくい面も出て来る。
 
しかし、この本を読むことで、まったくよくわからない部分と、分からないなりに把握できる部分が生まれてくる。
 
私自身はロシア軍の2022年の侵攻が始まるまで、恥ずかしながら現代ウクライナの状況をほとんど何も知らなかった。
ロシアのクリミアの併合が浸透工作から始まる不当な侵略だといううっすらとした認識があり、一方でドンバスに関しては名前も知らなかった。
 
本書を通じて、戦争に至るまでの近年のウクライナ・ロシアそしてアメリカなどの関係に関しての概略が掴めたように思う。
 
一方で、予言やプーチンのイタコではないので、戦争がいつどのように終結するのかの断言や、2022年に始まった全面侵攻をプーチンが決断した直接的なきっかけを断定的な記述はない。蓋然性の高い推論を示しつつ

プーチンに開戦を決断させた動機は何であったのかは、現時点では「よくわからない」と認めるほかないだろう。

(表題書195頁)

としている。

 
プーチンの心中は類推するしかないし、戦後になっても詳らかにならないかもしれない。
 
それより重要なのは、我々日本人にとっては、ウクライナは明日の東アジアという視点で、台湾有事の際に日本がどう振る舞うかであり、「おわりに」でも主体的議論の必要性を訴えて本書は結ばれている。
 
軍事理論の用語が見慣れないものでとっつきにくいところもあるかもしれないが一般書として丁寧に解説されており、すんなり読めるので広くオススメしたい。