暇つぶしの玄人

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難波和彦師の最終講義

建築家・住宅作家であり、東京大学建築学専攻では前専攻長でもある難波和彦さんの最終講義に行ってきました。

難波さんの代表作は箱の家と呼ばれる一連の住宅です。非常に数が多いです。
(もっとも、個人的なことですが、難波氏には実作よりもむしろ建築論で影響を受けています。)

難波氏は「建築の四層構造」なる思考の枠組みを提示されていて、そのタイトルの本が出版されています。

この本はなかなか厚いのですが、哲学や思想を参照しつつ難波和彦という建築家が建築をどう考えるのか、その方法を示しています。

今回の最終講義では、「四層構造」を中心に紹介されました。

ですが、私が注目したのは難波先生の幼少期のご自宅から始まって現代の活動までの個人史です。
バイオグラフィの中で四層構造を見直すと非常にわかりやすいのではないかと考えられます。

箱の家という住宅は現代ではシリーズ化されていますが当初は汎用性を全く意識されていなかったものです。
箱の家001の誕生は出版物の形で細やかに紹介されているのでここでは省きます。

今日知ったことは、この箱の家001の誕生後に早稲田の石山先生からアドバイスがあり、
戦後モダ二ズムの流れの中で歴史的に位置づけが考えられということです。
難波先生は建築史学の権威である鈴木博之先生とも近しく、
そういった人間関係が思想的な部分で大きな影響を与えていると考えられます。

また、東京大学で教鞭をとる以前のことも含めて、
難波先生がどのような研究活動なさってきたかが紹介されました。

技術史や建築論に関する師の造詣の深さや読書量は驚嘆に値し、
それに基づいた時代認識が四層構造を生んだと私は考えています。
レクチャーの始まりがマルクスの「歴史の亡霊」を引用するところから始まったことに注意すべきでしょう。

ときたま誤解されるのですが、難波先生は
「すべての建築は四つの要素でなりたっているんだ」
というような要素論を展開しようとしているのではありません。



四層構造は建築を見る視点の提案であり、建築を総合的にとらえ、デザインへと統合するための「図式」である。

(『建築の四層構造』初版 p162 l2)


あくまで師の歴史認識に基づいて、どのように現代の状況をとらえ、現代建築をデザインするか。
その方法論を構築するために、恣意的に決められた枠組みが四層構造なのでしょう。

私自身がこの視点を有効と考え利用しているかというと必ずしもそうではないのですが、
建築史、あるいは建築理論史の中で参照すべきひとつの理論ではあると思います。