暇つぶしの玄人

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ハイテク様式試論(その1)

様式化するハイテク建築
先日ロンドンに行ってから、ハイテク建築を通して「建築化すること」の意味と様式について考えている。

 ロイズ・オブ・ロンドンは言わずと知れたハイテク建築の代表的建築作品である。設計者はリチャード・ロジャース、ロンドンの金融街シティに建つ、機械のような建築である。

 設備系の配管やエレベータを周りに露出し、骨格の中にセルを収めたような造形、スティールのパイプを組み合せるようにして、あたかも工場で生産された製品のような印象を受ける。全体的にメタリックなテイストが多く、キラキラと輝く階段室や、ガラスと鋼材の組み合わせで未来的な印象をあたえるエントランスのキャノピーはこの建築がいかにも「ハイテクな」ものである印象を強く植えつけてくる。

 印象。

ハイテク建築とはハイテクな建築ではない。ハイテクなイメージを与える建築である。

 この建築は多くの線材を組み合わせて形作られているが、その一部はコンクリートである。しかしながら、コンクリートを材料として選択した部位もまた鉄骨構造のようなディテールで作られている。

 おそらく、プレキャストコンクリート部材を組み合わせて出来ていると考えられるスケルトンが遠巻きには鉄骨構造であるかの印象をあたえるため、不自然な造形を選択している。これがテクノロジーなのだろうか?

 ハイテク建築の先駆けはロジャース+レンゾ・ピアノによって設計されたパリのポンピドゥーセンターである。このときは、構造部材を外部に出していくことで内部の自由な空間を獲得することが設計意図としてあった。設備系を外に出していくことも、構造躯体に比べれば耐用年数の短い設備機材を、建物の使用を中断することなく交換しうるメリットから選択されたものである。
 このような設計を行ったバックグラウンドとして、ピアノに関しては家系が建設業者であったこと、ロジャースはじめフォスターやグリムショウなどイギリス人の場合は機械好きな気質とアラップ事務所がイギリスにあると言うことが指摘できる。グリムショウは構造エンジニアの血縁関係者もいる。
(つづく)