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現代日本の小説家を一人挙げるなら平野啓一郎と答えるくらいに、平野啓一郎の作品が好きだ。
では、平野啓一郎で最初に読む一冊は何がいいだろうか?
短編集の『透明な迷宮』は手始めにいいかもしれない。
処女作やこの短編集は森鴎外のような日本文学への歴史的接続を意識させるところがあるというのが個人的な印象。
特徴的な難しい漢字(幾許だとか)が多いのは読みにくさにつながるが、ルビは適宜振られているし、一つ一つが短いのでどれか一つ選んでだまされたと思って読むのに大きな苦痛はないだろう。
読んでいて引き込まれるようなスリリングで時にミステリアスな展開と、そこから薫ってくるすこしかび臭いくらいの湿った日本文学臭が刺さる人には刺さると思う。
とくに推したいのは「火色の琥珀」で、キリスト教神秘主義のテキストからの引用で始まるこの小品は、「一体何の話なのだろうか」と思っているうちに幽玄な世界に引きずり込まれる。
同時に最初は何の話か分からないがために二周したくなるタイプの小説だ。
中高生に
「性倒錯者の自伝の体裁をとった小説だよ、面白いから読んでごらん」
と紹介したら読んでもらえるかもしれないが、想像とは全く異なる方向性だろう。
恋慕の対象が(実在の)人間ではないというところまではままある設定だが…
燃えるような恋、熱い愛情などといいますが、火遊びはほどほどに。